ウェイターに横柄な態度をとったり、乱暴な口をきいたりする人とは?【福田和也】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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ウェイターに横柄な態度をとったり、乱暴な口をきいたりする人とは?【福田和也】

福田和也の対話術

 

■日常油断し、弛緩しきっている日本人が多い理由

 

 日本人には、そういう油断が、きわめて広範に見られるように思われます。

 例えば、アメリカに行くと、もちろん地域にもよりますが、朝など歩いていると、通行する人が、みな「ハーイ」とか、「モーニン」とか云って、挨拶をしてきます。

 あるいは、込み合った道などで、肩などがぶつかると、必ず、パードンという。

 こういう事態をさして、よく、アメリカ人はフレンドリーである等と云いますが、たしかにそうであるけれども、またアメリカ独特の事情もあると思います。

 アメリカというのは、申すまでもなく移民の国です。世界中から、いろいろな国民がやって来て暮らしている。国内でも始終移動をしているし、転職なんていうのは日常茶飯なわけです。職歴何年じゃないとクレジット・カードがもてない、なんていう国とはまったく違うダイナミックな社会です。

 そういう国では、当然のことながら、会う人間がどういう人間か解らない。とんでもない悪人なのか、いい人なのか、解ったものではない。

 とすれば、とりあえず会った人に、「自分は悪人ではありませんよ、あなたに危害を加えたりしませんよ」ということを示すために、にこやかに「ハーイ」などと云って見せなければならないのです。

 ところが日本は同質社会で、定住が基本になっているので、大概の人は悪人ではない、その料簡(りょうけん)は知れている、自分の想像の範囲外の人間などいるわけがない、という前提で暮らしているので、別にむっつりした顔で歩いていても構わない。

 これは、店などでも同じことですね。アメリカとかヨーロッパでは、お店に入る時に必ず、「ボンジュール」などと挨拶をしながら入りますね。ところが、日本人は、店に入る時に、一々挨拶したりする習慣がない。そのために、日本人は無作法だといって嫌われたりするわけですが、しかしこれも別にエチケットのいい悪いなどではないのです。やはり、これらの国では、店に入るということは、緊張を要することであり、それなりに愛想をよくして、自分が変な人間ではない、危険でもなければ、敵意もないことを示さなければならないのです。

 ところが、日本人の場合は、無言で、何の愛想もなく、ずかずかと店に入って来る。そこには他人の家を訪れるのだというような緊張感はまったくない。好きに入って出るのが、当然の権利であると思い込み、疑いのない油断が窺(うかが)われます。

 こうした油断を、私たちはむしろ好ましいもの、気の置けないものと考えているのですね。

 でも、どうでしょうか。

 この油断は、たしかに気持ちのいい、リラックス出来るものかもしれませんが、その陰でまた、多くの大切なものを見逃している、あるいは取り逃がしてしまっているものです。

 弛緩(しかん)して生きるということは、いかにも退屈なことではないですか。弛緩を肯定する態度は、着飾る喜びや、華やかな場所に出る心地よさ、磨き抜かれたおいしい料理を食べる愉悦などを遠ざけるものです。そういうものはいらない、という人もいるでしょうが、私はそういう喜びがないと生きていけない人間ですし、またそういう楽しみを追求出来る人が好きですね。そういう人の方が、弛緩している人より、幸福であるばかりでなく、人生にたいして真面目であると思います。

 

『福田和也コレクション1:本を読む、乱世を生きる』より本文一部抜粋)

 

 

 

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福田 和也

ふくだ かずや

1960年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部仏文科卒業。同大学院修士課程修了。慶應義塾大学環境情報学部教授。93年『日本の家郷』で三島由紀夫賞、96年『甘美な人生』で平林たい子賞、2002『地ひらく 石原莞爾と昭和の夢』で山本七平賞、06年『悪女の美食術』で講談社エッセイ賞を受賞。著書に『昭和天皇』(全七部)、『悪と徳と 岸信介と未完の日本』『大宰相 原敬』『闘う書評』『罰あたりパラダイス』『人でなし稼業』『現代人は救われ得るか』『人間の器量』『死ぬことを学ぶ』『総理の値打ち』『総理の女』等がある。

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